想像の世界で行動する〈我あり〉

何年か前にスタニスラフスキーの何かの本のなかに「I am」という言葉を見つけて、単純に「私(は)」と解釈していたけれど、最近になってスタニスラフスキーがこの事をどう言っていたのか詳しく知りたくて、どこかに書いていないか探していました。

 

「メソード演技」のシーンワークでは、テキストを読み込んだあと、実際に俳優がその場面にどう集中していくか具体的なやり方があって、インプロヴィゼーション(即興)を繰り返しながら探っていきます。映画「リチャード三世」のなかでアル・パチーノほか出演者たちがやっていますよね、あれです。もちろん映画向きに編集されていますが。

 

テキストから与えられた状況のなかで、俳優は自分が誰で、なぜここにいるのか、何が起こっているのか・・・などに集中しはじめ、実際に舞台上で起こっていることとして受けとめ行動していくわけですが、その時、必ず〈一人称〉で語りながら進めていく必要があります。日本の俳優の場合、一般的にセリフを暗記する事はきちんとやるのですが、セリフを読み取る力がとても弱いので、これはなかなか簡単にいきません。

 

ストラスバーグは演技をみていて問題があると、演技の途中で問いかけてくることがあって、その時、例えば「君は今なにをしているのか?」と問われ、演技者は「私は・・・」と役の人物のままで考え、答えていくことによって、演技の足りないものに気づき、違っているものを修正しながら、シーンに深く入り込んでいくのです。

 

スタニスラフスキーの「I am」というのは、「メソード演技」のインプロヴィゼーションにおけるこの〈一人称〉の事かどうかを確かめたかったわけです。

 

結局、お忙しそうだし悪いな〜と思いながらも内田健介さんに尋ねることにしました。すると「〈我あり〉のことですか? Я есмь. ロシア語だとこう表現するのですが、ちょっと調べてみますね。」との有り難い返信。すぐに調べてくださいました。

 

「I am」は日本語では「我あり」と訳され、何とスタニスラフスキーの「俳優の仕事」に、しかもごく最初の方に書かれていました。「想像力」の章に〈我あり〉の話がちゃんとのっていたのです。注意深く読んでみて、「メソード演技」の基になっていることがよく分かりました。そして、あらためてスタニスラフスキーが俳優の想像力についてここまで詳細に論理的に説明していることにとても驚きました。

虚構の世界に生きる俳優にとって想像力は、それなしでは生きられない創造の源ですが、「想像力は才能によるもの」で教えることのできないものとして片づけられ過ぎていることが、特に日本の俳優教育の場合、問題なのではないかと思うのです。

 

スタニスラフスキーが本のなかで言うように、俳優の想像力は「わざとらしい紋切り型の演技に陥らせる〈一般的〉な想像につねに見られる根拠のないものでなく、裏づけのあるものにすること」「揺らぎやすい不安定な空想を揺るぎない安定した現実に近づけること」によって育てていくことが可能なのです。それには右脳思考型の訓練が必要で、想像したことを身体で体験していくことが必要なのですが。

 

具体的に言うと、俳優が頭のなかに想像した世界を自分の外側の世界に置き換え、その中にどうやって「いる」ことができるかが問題なのですが、「メソード演技」では(役である)自分が、見る、聞く、感じるなどの感覚を通し、行動していく事によって想像(虚構)の世界に「いる」という実感を得ていきます。

 

昨年夏の高校生対象の演劇ワークショップで、終了後に「これまで映像に頼って想像を作っていたけど、自分自身しっかりとしたイメージを持てるようになりたい」、また「想像力をもっと鍛えていきたい」といったアンケートが生徒から寄せられました。

若くて柔軟性のあるときにこそ、自分の想像する世界でのびのびと行動することを学び、演じる喜びにつながっていく体験ができることは幸せなことです。

 

さて、櫻塾では3月30日(木)リリアン・ヘルマン作「子供の時間」からの抜粋でシーンワークの公開レッスンを開催いたします。スタニスラフスキーの基礎的な〈我あり〉から、テキストによって与えられた状況での〈我あり〉へと「メソード演技」の手法で迫ります。

 

観客を前にセリフや演技を固めてしまいがちな俳優たちが、創造プロセスのままを公開できるかどうかが私たちの課題です。客席に開かれた真実の演技空間を創造していくことが私たちの夢です。

 

皆さまのご来場、お待ちしております。

また、内田健介さんのスタニスラフスキーの講義が始まります。追ってこちらのほうもご案内させていただきます。

 

櫻塾・公開レッスン

日時:3月30日(木)19:00〜20:30

会場:目黒区民センター・第3研修室

カテゴリー: 櫻塾通信

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