アクターズ・スタジオの俳優たち〜その惜しみない努力〜

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私がニューヨークに滞在していた70年代、アクターズ・スタジオのセッションには当時、映画でよく知られる有名俳優たちの出席している姿が見られました。

 

ちょうど「ゴッドファーザー」が公開された頃で、セッションではスタジオメンバーでない出演者が特別許可を得てメンバーの相手役をしていたり、「狼たちの午後」で女房役を演じていたペネロペ・アレンが、ストラスバーグの個人クラスでモノローグをやっていました。ビルの清掃婦役で床をゴシゴシこすりながら一人喋り続ける彼女の姿が忘れられません。

先日、アル・パチーノの「リチャードを探して」をDVDで観たのですが、ペネロペ・アレンがイングランド王妃エリザベスを演じていて、とても感慨深い思いがしました。

アル・パチーノは、70年代に素晴らしい映画を次々とヒットさせていますが、ある日突然、私たちの演技クラスに普通に見学者として現れたときは驚きました。途中、ストリートで乱暴なファンたちから上着のボタンなどを引きちぎられたとかで、モミクシャにされていましたが。

 

とにかくアルもペネロペも大変に勉強熱心でした。そういった顔ぶれで「リチャードⅢ」を上演する過程がドキュメンタリータッチで描かれていた訳です。作品や役を掘り下げていく過程が映画からそのまま伝わってきます。

 

77年にトニー賞の主演男優賞を受賞した「The Basic Training of Pavlo Hummel」などアル・パチーノの舞台も幾つか観ていますが、確か「リチャードⅢ」も舞台で観ているはずです。こうして映画だけでなく、舞台にも精力的に取り組んでいく姿はほかの多くの俳優たちに大きな影響を与えていると思います。

 

「ディア・ハンター」のクリストファー・ウォーケンも何度かセッションで見かけましたが、ブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージアムでチェーホフの「かもめ」を舞台でやるというので観に行きました。確かトリゴーリン役だったと思います。

同じブルックリンで、スタジオメンバーではありませんが、やはり「ディア・ハンター」に出演していたメリル・ストリープが「不思議な国のアリス」のアリスを演じています。これは歌芝居というかミュージカルの作りで、透き通るような大変きれいな声で歌っていたのが印象的でしたね。ブロードウェイの劇場とは違い、小さなスペースで客席がとても近く親近感がありました。

 

そう言えば、ニューヨークに住みはじめた頃、ダスティン・ホフマンがNew Schoolで「メソード演技」のアニマル・エクササイズで、確かチンパンジーだったと思いますが、何ヶ月もチンパンジーをやっていると話題になっていましたっけ。

何年もたってからダスティン・ホフマン主演の「セールスマンの死」がブロードウェイの劇場で上演されました。残念ながら私は観ていませんが、大変好評だったようです。

 

まだまだ当時の話は尽きませんが、映画スタアと言われるようになってからも自分たちの才能に甘んじることなく、演劇を愛する一俳優として劇場を愛し、演技を磨く努力を怠らない俳優たちの姿がそこにはありました。

 

プロとしての俳優のあり方と、そういう中から俳優としてだけでなく人間としての魅力が備わってくるのだと、当時を振り返りながら、今またあらためて思ったりしています。

 

それにしても70年代のアメリカには素晴らしい俳優や監督が活躍していて、素晴らしい作品がたくさん作られました。その多くに当時のアクターズ・スタジオのメンバーたちが携わっており、アメリカの映画や舞台に大きく貢献しています。一つの時代を築いたと言っても過言ではないと思います。

 

俳優たちの惜しみない努力があったればこそなんですよね。

 

 

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