横浜駅で見つけたキャッチコピー「言葉に頼りすぎると退屈な女になっていく」!
通りしなにストレートに目に飛び込んできて思わず振り返りました。
このキャッチコピー、きっと女性がつくったのに違いないとさる女性が言っていましたが・・・すると女性が女性に警告? それとも自戒? ルミネの広告なのでファッションへの誘ないが狙いだろうけど、ファッションにとどまらない意味合いがいろいろ連想されて、私は思わずニヤリとしてしまうのですが。
さて、「女」を「俳優」に置き換えてみることもできるかなと。
言葉に頼りすぎる明治以来の旧態依然とした俳優の演技、でも芸達者な人がやると観客は「上手いね〜」と感心させられるあの演技。その流れは今でも脈々と受け継がれているように思います。演技の勉強がいきなりセリフの暗記からはじまったりするのですから、この流れはそうそう変わらないのでしょう。
「メソード演技」のシーンワークを勉強し始めた頃、セリフをきっちり暗記していって、それじゃ勉強にならないのだと知ったのが、ニューヨークでの演技の勉強の始まりでした。
また、セリフの意味合いを質問したり、解釈的な発言をすると、問答無用でガンガン叱られるのです。
「君は演技の何を分かっているのだ〜、まだ何も分かっていないのだろ〜〜〜!」
ストラスバーグという先生は大変に怖い人でした。全身全霊で叱られるのですから。
その先生がもっとも嫌ったのが解釈的な発言です。これはタブーでした!
頭でっかちな俳優、その演技を徹底的に叩き潰す勢いでした。
今思えば、リー・ストラスバーグというアメリカ最大の演技教師はこうして俳優の悪癖に鉄槌を下し、新しい演劇を目指して偉業を残したのだと思います。
個人攻撃されたと受けとめた俳優たちは、何に対して叱られたのか理解できないまま立ち去るしかなく、自分の演技に本気で向き合っている俳優たちにとっては問題を指摘され解決へと導いてくれる彼の強烈な指導であって、大きくショックを受けながらも心からの感謝の念を禁じ得ないのです。
実は、私にもストラスバーグとの全身全霊対決の経験が一度あって、そのとき彼は70代後半の高齢でしたが、どうしても気づけないでいる私に全身全霊でぶつかってくれたことがありました。日本にいたらこの指導は決して受けられなかったろうと今でも感謝しています。そのことはまた後日に触れたいと思います。
日本における言葉偏重の演技指導は、俳優養成のシステムがきちんとできていない証に思えます。何をめざしてどういう形で指導されていくべきか、共通言語をもち、目指すべき俳優の演技の有り様が見えてくるまでには、まだまだ時間がかかりそうです。
そういう意味で「メソード演技」を背景にした私が、西村洋一氏の指導するスタニスラフスキーシステムの「レーチ」と出会ったことは大きなことだと思っています。
いつまでも台本が手放せずセリフの言葉にしがみつく俳優たち、言葉に頼りすぎる俳優たちにこそ、是非、体験して欲しい日露演劇会議企画のワークショップをやっていますが、高校生対象に続けている「ハイスクール・ドラマキャンプ」というのがあって、「メソード演技」と「レーチ」の抱き合わせになっています。
この夏、高校生の素直な柔軟性が素晴らしくて、未来の可能性を期待できそうな嬉しい反応がみられました。台本から抜粋されたセリフと身体と声と内面をつなぎ合わせながらの指導がとても楽しいと言います。午前中かたく内向していた表情が午後にはいきいきとしてきます。 参照 http://www.jrtf.jp/
ミュージカルなどで有名な某大手劇団の若い俳優たちのために、この夏、本格的なスタニスラフスキーシステムのワークショップが実施されました。
少しずつですが、こうして日本の演劇界にも俳優たちの演技を見直そうという新しい動きが芽生えはじめ、新しい未来が開かれつつあるように思います。
古い衣を捨てようとする意識、新しい衣への夢が新しい未来をつくっていきます!