アクターズ・スタジオでセッションを見学していた若き日ころ、舞台上の俳優たちの大きな存在感を見ながら、自分と何がどう違うのだろうといつも思っていました。
ちょうどそんな頃、ストラスバーグのクラスで舞台上の私の〈集中の仕方〉に問題があると指摘されハッとしました。そして何をどうするべきか迷った末、いつも持ち歩いて読んでいた本を思い切って手放しました。それから生活が変わりました。
公園のベンチにすわって過ごす時間は、空や木々、アリの行列や駆け回る犬たちに目が行くようになり、電車のなかのいろいろな人たち、ハドソン川に沈む大きな夕日、街中に溢れる様々な落書き・・・それまで見ていた(はずの)一つ一つのものが初めて自分とつながって鮮明に見えてきたのです。見ているものが自分のなかに入ってきました。
私は子供のころから本に集中するとまわりの音が聞こえなくなり、場所もそばにいる人たちもいないも同然になってしまう癖がありました。
俳優にとってこれは非常に悪い集中の仕方なんですね。
ストラスバーグに強く指摘されて、初めて舞台上の俳優に必要な集中の仕方があることを学びました。
一点集中的な習慣から、視野を広げた集中力を身につけるにはなかなか時間がかかりました。日常的には遠くを見る習慣が必要だし、舞台上では心身ともによほどリラックスしていなければ、なかなか視野は広がりません。集中するとどうしても身体に力が入りやすくなります。力をぬくと集中力が弱まる感じがします。訓練の積み重ねなしには身につけられない基礎中の基礎でした。
本を読むのをやめ、当時はロフト生活でしたから、ロフトのだだっ広いスペースにすわってボンヤリ何もしないで時間を過ごす。しだいに無心な状態で空間にいられるようになっていきました。元々、北海道育ちで広い大地や空や海に馴染んではいたのですが、その頃はアメリカだけでなくカナダやヨーロッパの大きな自然に触れるなどして、私にとってはまさしく根本的な〈再生のとき〉でした。
2年くらいそんな生活を続けました。何て贅沢な時間だったかと思います。
そのうちまた本を読みはじめたときには、読むのに時間がかかるようになって困りましたが(笑)。この経験から右脳と左脳のバランスを考えるようになりました。
こうして舞台上に「いる」感覚が分かるようになっていき、アクターズ・スタジオの俳優たちの大きな存在感が身近に感じられるようになりました。
携帯もパソコンもない時代の話です。
一点集中と広い視野について、改めて内省することができました。
集中の仕方を改善することは、長い時間がかかるということを知り、
これからの課題にしていきたいと思いました。
また、「演技の基礎」記事と同様に私のBLOG
http://ameblo.jp/mariburo/entry-12202498441.html
にリンクを貼らせていただきました。
何卒、よろしくお願い致します。
阿部君
リンク、ありがとうございます。
視野が広がるといろんな事が今までと違って見えてきますよね。
ゆっくりとやっていって下さい。