I don’t care what you think !
I don’t care what you care !
こう言って怒るストラスバーグの声が、年月の経った今でも聞こえてきます。
叱られた本人は自分の思っていることを真面目に発言しただけでしょうけど、それが良くないわけです。ようするに役者が演技のことを頭で考えたり、こだわったりして何になるのだ。何の助けになりはしない。と、全身全霊で一喝されるので、私などは人が叱られていることでも骨の髄までしみいりました。これくらい怒鳴られないと、頭で考える役者ってなかなかその習慣をやめられないということでしょうね。
クラスで役者が自分の考えを言ったり、主張したりすることは全くタブーでした。舞台上の役者はもちろん、見ている役者たちも同じです。まあ、当たり前な事なんですがね。私たちはひたすら舞台上の役者の演技を観ながら、ストラスバーグとのやり取りやコメントに耳を傾け、次に自分たちがその舞台で演技するときのために大事なことを逃すまいと一生懸命でした。クラスには常に快い緊張感があって、咳払いひとつにも気をつかいました。これはアクターズ・スタジオでも彼の個人クラスでもまったく同じです。
シーンワークの勉強では、舞台上で自分が今どこにいて何をしているのか、そこで何が起こっているのか本番と同様に集中していくので、やるべき事をやることがすべてなのです。役者はやるべき事をやっているか、やっていないか、それしかないわけです。やるべき事とは、台本に書かれている状況を自分自身におこっていることとして受けとめ、状況のただ中に身を置くことができるかどうかです。そのためにも感覚の訓練はとても大事なレッスンなのです。
演技の途中でストラスバーグが声をかけてくることがあります。「今やっていることをやめないで! これから私が言うことをよく聞きなさい」
演技中の役者は、集中を途切れさせないように演技をちょっと中断して、ストラスバーグに要求されたことを実践で応えていかなければなりません。怖がってためらったり躊躇している暇はなく、その場で、与えられている状況のなかで、やるしかないのです。役者が言われたことに取りかかるまでストラスバーグの手綱は緩みません。
レッスンは2時間とされていますが2時間で終わったためしはなく、役者が実際に自分の体験として受けとめるまで3時間でも4時間でも続きました。
そしてようやく役者が自分の問題に気づき、かたいガードが解けるなどすると、役者の演技がその場で別人のように変わっていく様子を、私たちは何度も目撃しました。レッスンはこれほど具体的で実践的でした。
当時、ストラスバーグは「演劇の神さま」と呼ばれ、アクターズ・スタジオで優れた俳優たちを数多く育てていましたが、かけ出しの俳優であろうと、名前の売れた有名俳優であろうと、望む人には平等に彼の指導を受けるチャンスが与えられたのです。
ただし、役者がこれまでの自分の演技へのこだわりを捨ててこそ、その恩恵をこうむることができたわけで、こだわりにしがみつく役者には冒頭のカミナリがよく落ちたし、カミナリを受けとめきれなければクラスを出ていくしかないのです。